米超党派JAWBONE法、政府の言論強制を禁止へ
米上院議員Ted Cruz氏とRon Wyden氏が超党派で提出したJAWBONE Act。連邦政府職員によるプラットフォームへの言論統制強要を禁止し、被害者に私人訴権を認める。
米国上院議員Ted Cruz氏(共和党・テキサス州)とRon Wyden氏(民主党・オレゴン州)は現地時間6月11日、超党派のJAWBONE Act(Justice Against Weaponized Bureaucratic Overreach to Networked Expression Act)を提出した。本法案は連邦政府機関および政府職員が放送局やオンラインサービス事業者、AIサービス事業者に対してコンテンツ変更を強要する行為を禁止し、違反した場合に被害者が政府職員を訴える私人訴権(private right of action)を創設するものである。
Ars Technicaの報道によれば、この法案は連邦通信委員会(FCC)のBrendan Carr委員長によるテレビネットワークや放送局への圧力の繰り返し、あるいはソーシャルメディア企業やAIチャットボット事業者に対して政府が課した圧力に適用される可能性がある。Carr委員長は以前、ABCに対してJimmy Kimmel氏の番組を一時停止するよう圧力をかけたと批判されている。
法案の内容と目
JAWBONE Actの正式名称は「Justice Against Weaponized Bureaucratic Overreach to Networked Expression Act」、いわゆる「ジャウボーニング(jawboning)」対策法案である。ジャウボーニングとは、政府が民間企業に対して憲法修正第一条で保護された表現の検閲を暗に強要する行為を指す。
法案の骨子は以下の通りである。
第一に、連邦政府機関およびその職員が、放送事業者やオンラインサービス提供者、AIサービス提供者に対して、特定のコンテンツの変更・削除・制限を強要することを禁止する。第二に、この禁止に違反した場合、被害者は連邦裁判所にて政府職員を訴え、損害賠償(compensatory damages)を請求できる。第三に、州の司法長官も民事訴訟を提起する権限を持つ。
法案サマリーによれば、現行の判例では原告は強要が実際に成功し、コンテンツの削除や変更が行われたことを立証しなければならない。しかしJAWBONE Actでは、強要行為そのものに対して訴訟を提起し、金銭的損害賠償を求めることが可能となる。
超党派だが異なる焦点
Cruz氏とWyden氏の連名によるプレスリリースでは、両氏の見解が示されている。Cruz氏はバイデン政権時代の行動に焦点を当て、「バイデン政権はサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)を武器化し、ワクチン義務や選挙不正に反対するアメリカ人の発言を「キャンセル」するようビッグテックに圧力をかけた」と述べた。
一方、Wyden氏はトランプ政権の行動を批判する。「最も明らかな例は、トランプ氏が深夜トーク番組を気に入らないという理由でケーブルテレビ会社を脅迫したことだ。しかしジャウボーニングは党派的なものではなく、新しい現象でもない」とWyden氏は指摘する。
Wyden氏の報道官はArs Technicaに対し、同法案はプレスリリースで言及されていない他のシナリオにも適用されると説明した。例えばトランプ政権がICEBlockのようなアプリを削除するようアプリストアに圧力をかけたケースなどが該当する。
私人訴権の意義
JAWBONE Actの核心は私人訴権の創設にある。これにより、政府の圧力によって表現が妨害された個人は、連邦裁判所に直接訴訟を提起できるようになる。現行制度では、政府の圧力が実際にプラットフォーム側の対応を引き起こし、かつそれが憲法違反であることを立証する必要があった。法案はこのハードルを引き下げ、強要行為そのものを訴訟対象とする。
Wyden氏はプレスリリースで「アメリカ人のほぼすべての表現(テレビニュース、オンラインストリーム、ソーシャルメディアを含む)は、政府の圧力に極めて影響されやすい民間企業を通じて流れている」と述べている。この認識が本法案の根底にある。
編集部の見解
短期的には、JAWBONE Actが成立すれば、連邦政府機関はプラットフォーム運営者への非公式な圧力を控えるようになる。FCCやCISAといった機関の職員は、特定のコンテンツ削除を「要請」する行為が訴訟リスクを伴うことを認識するだろう。これにより、トランプ政権やバイデン政権下で見られたような政府とプラットフォーム間の暗黙の調整は減少する可能性が高い。
長期的視点では、本法案は憲法修正第一条をめぐる法的枠組みを大きく変える可能性がある。これまで政府の「説得」と「強制」の境界は曖昧だったが、JAWBONE Actは強要行為を明確に定義し、私人による執行を可能にする。ただし、表現の自由を保護する一方で、政府による国家安全保障上の警告(例えば偽情報対策や緊急時対応)が萎縮するリスクも否定できない。編集部としては、法案の意図には理解を示しつつ、実際の運用においてどこまでの行為が「強要」とみなされるかの線引きが実務上の課題になると考える。
編集部からは一つの問いを提起したい。プラットフォーム事業者が政府の圧力に屈した場合、プラットフォーム自体の責任をどう考えるべきか。JAWBONE Actは政府職員を訴える手段を提供するが、実際に検閲を実行したプラットフォーム事業者に対する法的責任は明確ではない。政府とプラットフォームの共犯関係をどう規律するか、今後の立法議論で問われるべき論点である。
参考
よくある質問
- JAWBONE Actはどのような行為を禁止するのか?
- 連邦政府職員が放送局やオンラインサービス事業者、AIサービス事業者に対して特定のコンテンツの変更・削除を強要する行為を禁止する。強要が成功したかどうかに関わらず、強要行為そのものが違法となる。
- 私人訴権とは何か?
- 政府による違法な強要によって表現を妨害された個人が、自ら連邦裁判所に訴訟を提起し、損害賠償を請求できる権利。現行法では原告は政府の圧力が実際に効果を上げたことを立証する必要があったが、JAWBONE Actでは強要行為そのものに対する訴訟が可能となる。
- この法案はなぜ超党派で支持されているのか?
- 共和党のCruz氏はバイデン政権、民主党のWyden氏はトランプ政権による政府圧力をそれぞれ批判しており、党派を超えて政府による言論統制への懸念が共有されている。両氏とも憲法修正第一条の保護を強化するという目的で合意している。
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