IMAX 70mm上映の希少性、『The Odyssey』で顕在化
クリストファー・ノーラン監督の『The Odyssey』が全編IMAXフィルムで撮影されたものの、本来の画質で鑑賞できる劇場は世界で41館のみ。デジタル化によるフォーマットの分断が浮き彫りになった。
クリストファー・ノーラン監督の『The Odyssey』は、全編IMAXフィルムカメラで撮影された初の長編映画として注目を集めている。WiredのCorey Atadの報道によれば、同作品は全世界の数千スクリーンで公開されているものの、本来のIMAX 70mmフィルムで上映可能な劇場はわずか41館——そのうち米国内に25館——しか存在しない。多くの上映回は数週間先まで完売状態にある。
IMAX 70mmフィルムは、65mmフィルムネガを横方向に送り、標準の5パーフォレーションに対して15パーフォレーション幅の画像を記録する。巨大なIMAXスクリーンに投影される1.43:1のほぼ正方に近いアスペクト比の映像は、標準的な映画体験を大きく上回る没入感を提供する。しかしこの「本物のIMAX」を享受できる機会は極めて限られている。
IMAXフォーマットの多様化
IMAX Corporationは2008年に最初のデジタルシステムを導入した。1980年代にスミソニアン航空宇宙博物館のIMAXシアターを管理し、2008年から2021年まで大型スクリーン業界誌LF Examinerを運営したJames Hyder氏は、IMAXのデジタル進出について「これは2008年にIMAXが最初のデジタルシステムを導入したことから始まった」と語る。同社は長年計画していた方向転換を実行し、博物館や科学館から大手シネマチェーンへと事業を拡大した。
その結果、IMAXシアターと呼称される施設であっても、体験内容は大きく異なる。2K解像度のデジタル方式、4Kレーザー方式、従来の15/70mmフィルム方式など、複数のバリエーションが存在する。ほとんどのデジタルIMAXシアターでは、画像を1.90:1のワイドなアスペクト比にトリミングし、従来の大型IMAXよりもかなり小さいスクリーンに投影している。
消費者が直面する混乱
大手シネマチェーンがDolby Visionなどのプレミアムラージフォーマット(PLF)スクリーンに投資する中、IMAXと他のプレミアムフォーマットの差異は消費者にとって判別が難しくなっている。『The Odyssey』はIMAX 70mmを含む6つのプレミアムフォーマットで提供されており、公式サイトでは各フォーマットの特徴とアスペクト比を一覧表示している。しかし「70mm IMAX」と「通常のIMAX」を区別する一方で、「通常のIMAX」が内包する多様な品質幅を説明しきれていない。
Hyder氏は「これは顧客に対する背信行為であり、IMAXが本来標榜してきた本物の巨大スクリーンの評判を悪用している」と指摘する。IMAX社はコメントの要請に応じていない。
フィルム上映の再評価
近年、フィルム撮影とフィルム上映への回帰現象が見られる。IMAX 70mmは特にその最高峰として位置づけられ、ノーラン監督の作品は定期的にIMAX 70mmで公開されている。しかし、その上映が可能な劇場数の少なさが、フォーマットの価値を高めると同時に、アクセシビリティの壁にもなっている。
編集部の見解
短期的には『The Odyssey』のIMAX 70mm上映チケットの争奪戦が、消費者のフォーマットに対する関心を一時的に高める可能性がある。しかし、体験格差を解消する具体的な施策が取られなければ、IMAXブランドへの信頼は長期的に損なわれると見る。IMAX社がデジタル化による拡大路線を続ける限り、純粋なフィルム体験を提供できる物理的な劇場数は増えない。
長期的視点では、IMAXというブランド名が「没入型大画面体験」という一般名詞化するリスクがある。本来は特定の技術仕様を示す商標だったものが、マーケティング用語として希釈されれば、映画製作者が意図した画質を消費者が保証されない状況が常態化する。映画館業界全体でのフォーマット標準化の議論が必要となる。
編集部としては、「本物のIMAX」と「デジタルIMAX」の違いを消費者が容易に識別できる透明性の高い情報開示が急務だと考える。IMAX社はなぜ自社のフォーマットの差異について明確な説明を避けるのか。この問いに対する回答がなければ、フォーマット間の信頼格差は拡大する一方だろう。
参考
- 「‘The Odyssey’ Was Made for Imax 70mm. Good Luck Watching It That Way」, by Corey Atad — Wired, 2026-07-25T10:00:00.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://www.wired.com/story/the-odyssey-was-made-for-imax-70mm-good-luck-watching-it-that-way/
よくある質問
- IMAX 70mmフィルムとデジタルIMAXの違いは何か
- IMAX 70mmフィルムは65mmフィルムを横送りで15パーフォレーション幅の画像を記録し、1.43:1のアスペクト比で巨大スクリーンに投影する。デジタルIMAXは2Kまたは4Kのデジタルプロジェクションで、多くの場合1.90:1のアスペクト比で、スクリーンサイズも小さい。フィルム方式は解像度と没入感で優位だが、上映可能な劇場は限られる。
- 『The Odyssey』はなぜIMAX 70mmで観る価値があるのか
- 本作は全編IMAXフィルムカメラで撮影された初の長編映画であり、監督が意図した画角と解像度を完全に体験できる唯一のフォーマットがIMAX 70mmフィルムだからだ。デジタルIMAXでは画角がトリミングされ、解像度も低下するため、本来の没入感を得られない。
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