米ヒートポンプ販売、税控除終了後も過去最高を更新
米国でヒートポンプの販売が税額控除終了後も伸び続けている。2026年第1四半期にはガス炉を32%上回り、過去15年で販売数は倍増。省エネ意識の高まりとインフレ抑制法の効果が持続している。
米国でヒートポンプの販売が税制優遇措置の廃止後も衰えを見せていない。2025年末で連邦税額控除(最大2,000ドル)が終了したにもかかわらず、2026年第1四半期の出荷台数は天然ガス炉を32%上回り、過去15年間で販売数は倍増した。カリフォルニア大学バークレー校のエネルギー経済学者ルーカス・デイビス氏の分析によれば、ヒートポンプの出荷は季節変動を超えて着実な上昇基調にある。
米国暖房冷凍空調協会(AHRI)のデータは、同団体がカバーする約90%の市場において、ヒートポンプの出荷が2025年12月から2026年1月にかけて横ばいとなり、その後徐々に上昇していることを示している。冬季から春季にかけてのこの増加は従来の季節トレンドに従うものであるが、税額控除終了後に販売が急落した電気自動車(EV)とは対照的な動きを見せている。
EV向け税額控除(最大7,500ドル)は2025年9月末に終了し、期限直前の駆け込み需要で販売が急増した後、急落した。その後市場は正常化しつつあるが、税額控除の廃止が大きな影響を及ぼしたことは明らかだ。それに対し、ヒートポンプは同じインフレ抑制法(IRA)由来の消費者向け優遇措置が2025年末で失効したにもかかわらず、販売がむしろ増加している。
ヒートポンプの技術的優位性
ヒートポンプは電気を動力源とし、冷媒を循環・圧縮・膨張させることで熱を移動させる装置である。暖房時には外気や地中から熱を汲み上げ、冷房時には逆のサイクルで室内の熱を外部に放出できる。この動作原理により、投入電力1単位あたり3〜5単位の熱を移動させることが可能で、ガス炉や電気抵抗式暖房と比較して大幅に高い効率を実現する。
運転コストは地域の電力料金や気候に依存するが、一般的にガス炉や石油炉より安価となる。燃焼工程を伴わないため、建物の二酸化炭素排出量を削減する上でも有力な選択肢とされる。米国エネルギー省は、ヒートポンプが適切に導入された場合、暖房関連のエネルギー消費を最大50%削減できると試算している。
税控除終了後も販売が伸びる要因
MIT Technology Review AIのケイシー・クラウンハート記者の報道によれば、ヒートポンプの販売が税控除終了後も伸びている背景には複数の要因が存在する。第一に、インフレ抑制法によって2023年から2025年にかけて税額控除が利用可能であった期間中に、消費者と設置業者の間でヒートポンプに対する認知と理解が大幅に向上した。税控除終了後も、その知識と信頼が販売を下支えしている。
第二に、2025年から2026年にかけての天然ガス価格の上昇と電力料金の相対的安定が、ヒートポンプの経済的優位性を強めている。MIT Technology Review AIの記事では、ヒートポンプの導入コストはガス炉より高いものの、長期的な運用コストの低さが消費者にとって大きな魅力となっている点が指摘されている。
第三に、州レベルでの追加補助金や、電力会社によるリベート制度が連邦税控除の穴を埋めている。カリフォルニア州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州などは独自のヒートポンプ補助プログラムを維持しており、これらが販売を後押ししている。
第四に、気候変動への関心の高まりと、建物の脱炭素化を求める規制の強化が需要を拡大している。一部の都市や州では新築建築物に対する化石燃料暖房の禁止または制限を導入しており、これがヒートポンプへのシフトを促進している。
今後の課題と市場展望
ヒートポンプのさらなる普及には、設置コストの高さと、寒冷地における性能低下という二つの技術的課題が残る。特に米国中西部や北東部の厳冬期には、外気温度が低下するにつれてヒートポンプの効率が低下し、補助暖房が必要となるケースがある。メーカー各社は低温対応型モデルの開発を進めており、性能改善が進んでいる。
また、設置業者の不足も成長の制約要因である。ヒートポンプの設置には冷媒取り扱いの資格と専門知識が必要であり、ガス炉の設置に比べて熟練工の需要が高い。業界団体は訓練プログラムの拡充を進めているが、需要の伸びに追いついていない。
中期的には、今後の連邦政府のエネルギー政策がヒートポンプ市場に影響を与える可能性がある。現行のトランプ政権下ではIRAの消費者向け優遇措置が削減されたが、ヒートポンプの販売データは政策インセンティブに依存しない需要の根強さを示している。
編集部の見解
短期的には、連邦税控除の終了後もヒートポンプ販売が拡大を続けるという今回のデータは、エネルギー転換における「慣性(モメンタム)」の重要性を示している。一度消費者が技術のメリットを体感し、設置業者のエコシステムが整備されると、補助金がなくとも市場は自律的に成長しうるという点は、他のクリーンエネルギー技術にとっても示唆に富む。特に、2026年第1四半期にガス炉を32%上回った数値は、ヒートポンプが単なる補助金頼みの製品ではないことを明確にしている。 長期的視点では、建物の電化(Electrification of Buildings)は今後10年間でさらに加速すると見られる。ただし、寒冷地での効率課題と設置コストの壁を克服するためには、技術革新と訓練された労働力の拡充が不可欠である。加えて、電力網の容量と発電源の脱炭素化が進まなければ、ヒートポンプの環境メリットは限定される。EVと同じく、電化の恩恵を最大化するには上流の電力のクリーン化が前提となる。
参考
- 「Why heat pumps are still so hot in the US」, by Casey Crownhart — MIT Technology Review AI, 2026-07-16T10:00:00.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://www.technologyreview.com/2026/07/16/1140505/heat-pump-sales-us/
よくある質問
- ヒートポンプは日本の寒冷地でも使えるのか
- 最新の寒冷地用ヒートポンプは外気温マイナス20度まで対応可能な機種も登場しているが、効率は低下する。北海道などの厳冬期には補助暖房の併用が必要となる場合がある。日本では主に東北・北海道向けに高能力モデルが販売されている。
- 米国でヒートポンプの税控除が終了したのに販売が伸びている理由は
- 主な理由として、①2023〜25年の税控除期間中に消費者と設置業者の認知が向上したこと、②天然ガス価格の上昇によりランニングコスト優位が強まったこと、③州や電力会社の追加補助金が継続していること、④気候変動意識の高まりと建物電化規制の強化が挙げられる。
- ヒートポンプの設置費用はどのくらいかかるのか
- 米国ではヒートポンプ本体と設置工事を合わせて5,000〜12,000ドル(約75万〜180万円)程度が一般的で、ガス炉(3,000〜6,000ドル)より高額である。しかし、運転コストの低さにより数年から十数年で投資を回収できるケースが多い。日本では補助金を活用すれば50万〜80万円程度で設置可能な機種もある。
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