中国PCB、世界6割の供給とAIサーバー依存の深層
世界のPCB生産の約6割を中国が占める。AIサーバー向け高級基板では需要が拡大し、一部企業はNVIDIA向け受注で売上を急増させている。エコシステムの強固さと技術蓄積が競争力の源泉だ。
世界のプリント基板(PCB)市場において、中国の存在感が急速に高まっている。2025年の世界PCB総生産額は850億ドルに達し、その約6割を中国が占める。特にAIサーバー向けの高級PCB分野では、需要の急拡大が中国企業に追い風となっている。
背景には、AI半導体の性能向上に伴う基板の高度化がある。NVIDIAのH100からRubin Ultraへと世代が進むにつれ、一台あたりのPCB価値は2500ドルから10万ドルへと跳ね上がる。この市場の中心にあるのが、中国のPCBメーカー群だ。
PCBとは何か
PCBは「電子製品の母」とも呼ばれ、あらゆる電子機器に不可欠な部品である。チップを脳に例えれば、PCBは血管や神経に相当する。チップ単体では何もできないが、PCB上に実装されることで初めて機能する。
1936年、ユダヤ系の青年パウル・アイスラーが自らのアパートで世界初のプリント基板を創り出した。第二次世界大戦中、米軍が無線機器に採用したことでその価値が広く認知され、軍用から民用へと普及が進んだ。
現在ではスマートフォン、パソコン、ルーター、モバイルバッテリーに至るまで、ほぼ全ての電子製品にPCBが搭載されている。
AIサーバー向けPCB需要の急増
NVIDIAのAIサーバー向けPCBで最も注目すべき変化は、基板の層数と材料の高度化だ。H100では通常の多層基板で十分だったが、GB300では24層の高密度相互接続(HDI)基板が必要となる。VR200では26層のHDIにM8材料、78層のバックプレーンが必要となり、Rubin Ultraではバックプレーンが104層に達する。
この技術的難度の上昇が、PCBの単価上昇に直結している。H100世代では一台あたり2500ドル程度だったPCBの価値が、Rubin Ultraのラック全体では10万ドルにまで高まる。
中国の大手PCBメーカーであるShenhong Technologyは、NVIDIAのAIサーバー向けPCBの約7割を供給している。同社は2025年、売上高192.9億元(前年比79.77%増)、純利益43.12億元(同273.52%増)を達成した。AIサーバーPCBの収入は7.1億元から83.4億元へと、1年で約11倍に拡大している。
エコシステムの強み
中国PCB産業の強さは「コストの安さ」だけでは説明できない。ベトナムやインドの生産コストは中国より低いが、両国のPCB生産能力を合わせても世界シェアの8%未満だ。
第一の要因は産業クラスターの集積度にある。珠江デルタや長江デルタのPCBクラスターでは、周囲300キロ以内にPCBの全関連部品が揃う。銅張積層板、銅箔、ガラスクロス、ドリルビット、化学薬液、金型、検査設備の全てが近隣で調達可能だ。
第二の要因は技術者の経験値にある。28層基板の穴あけ回転数、エッチング液の濃度、メッキの電流密度といったパラメーターは、マニュアルだけでは決まらず、試行錯誤によって蓄積される。15年以上の経験を持つ技術者は中国全土で数万人規模に上るとみられる。
第三の要因は顧客との信頼関係だ。PCBは高度にカスタマイズされた製品であり、企画から量産まで通常3〜6ヶ月を要する。中国PCB企業は世界の電子ブランドと20年にわたる協業関係を構築してきた。
業界全体の拡大
Shenhong Technologyだけでなく、中国のPCB業界全体が拡大している。Shennan Circuitは2025年、純利益が74.47%増加し、AIサーバーと800G光モジュール向けの受注は2026年第4四半期まで埋まっている。
Ponding Holdingsは2025年の売上高391.47億元で9年連続世界一となり、AIサーバー事業は倍増した。同時に淮安に80億元を投資し、高級生産ラインを建設している。
2025年には20社の中国PCB企業が拡産に踏み切り、総投資額は800億元を超えた。
NVIDIAとの関係深化
2025年5月17日、NVIDIAのCEOであるJensen Huangは台北で宴を開き、AIサプライチェーンの中核パートナーをもてなした。その席で、Shenhong Technologyの創業者Chen Taoは、会場で唯一の中国本土出身の企業家として招かれた。
Chen Taoは2017年、世界のPCB市場が下降トレンドにある中で、高密度相互接続PCBへの大規模投資に踏み切った。当時、NVIDIAは初のAIサーバーDGX-1を発表したばかりであり、AIサーバー市場は黎明期にあった。
「AIの計算能力はますます集中し、集中した計算能力にはより良い基板が必要になる」とChen Taoは判断した。この判断は後に正しかったと証明され、同社の時価総額は一時3957億元に達した。
編集部の見解
今回の報道は、AIサプライチェーンの地殻変動を如実に示している。短期的には、AIサーバー向けPCBの需給逼迫が続くとみられる。Shennan Circuitの受注が2026年第4四半期まで埋まっている事実は、供給制約が少なくとも1年以上続くことを示唆している。
長期的には、中国PCB産業のエコシステムの強固さが、生産能力の東南アジア移転を遅らせる要因となる。工場の移転は可能でも、クラスターの集積度や数万人の技術者の経験値は短期間で再現できない。ただし、地政学的リスクや顧客企業のサプライチェーン多元化の動きが、中長期的な変数となる可能性がある。
編集部としては、AI半導体の進化がPCBの技術的難度を引き上げ、それが中国企業に有利に働く構造に注目したい。NVIDIAの次世代チップで要求される104層のバックプレーンなど、技術的なハードルが高いほど、長年の経験と試行錯誤の蓄積がある中国企業の優位性は増す。日本企業や韓国企業がこの分野で巻き返しを図るためには、どのような戦略が必要かが問われている。
参考
- 「全球60%!这拨中国企业,又把美国给干慌了」, by 华商韬略 — 钛媒体, 2026-07-14T09:22:08.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://www.tmtpost.com/8064105.html
よくある質問
- PCBとは何か
- プリント基板(Printed Circuit Board)の略。電子部品を実装し、回路を形成する基盤。電子製品の「血管と神経」に例えられ、チップを機能させるために不可欠。
- なぜ中国がPCB市場の約6割を占めるのか
- 産業クラスターの集積度、熟練技術者の数、顧客との長期信頼関係の3点が主因。単なる低コストだけでなく、エコシステム全体の強固さが競争力の源泉。
- AIサーバー向けPCBはなぜ高価格なのか
- 層数が増え、特殊材料が必要となるため。H100からRubin Ultraへと世代が進むにつれ、一台あたりのPCB価値が2500ドルから10万ドルに跳ね上がる。 ## 参考 - 钛媒体 「世界60%!这撥中国企業,又把美国给幹慌了」 https://www.tmtpost.com/8064105.html — 2026-07-14公開
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