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AIデータセンター需要、米製造業の電力コストを急騰

米国中西部の製造業者がAIデータセンター急増による電力コスト高騰に直面。鉄鋼やレンガ業界の収益を圧迫し、トランプ政権の「Made in America」計画に暗雲が垂れ込めている。

8分で読める SINGULISM 編集チームが確認・編集

AIデータセンター需要、米製造業の電力コストを急騰
Photo by Peter Herrmann on Unsplash

米国中西部ラストベルト地域の製造業者が、AIデータセンターの急増に伴う電力コスト高騰に直面している。この状況は、トランプ大統領が掲げる「Made in America」による製造業復興計画に深刻な影響を及ぼす可能性がある。Ars Technicaの報道によれば、電力網運用者PJM Interconnectionが管轄する13州の地域で、工場の電気代が他の業務用需要家や住宅用需要家より急激に上昇している。

背景

トランプ政権は製造業の国内回帰を最優先政策の一つに掲げてきた。関税引き上げや規制緩和によって鉄鋼、セメント、自動車などの分野で米国内の生産を促進する計画だ。しかし、同時に同政権はAIデータセンターの建設を積極的に推進してきた。AI競争で中国に対抗するため、大規模な計算インフラの整備を支援している。

この二つの政策が、電力網という共通資源を巡って衝突し始めている。データセンターは1基あたり数十MWから数MWの電力を消費する。ラストベルト各州は税制優遇や用地提供でデータセンターを誘致してきたが、その成功が皮肉にも既存の製造業を圧迫している。

PJM Interconnectionは米国最大の卸電力市場を運営する。同地域のデータセンター建設ラッシュが電力需要予測を急増させ、系統全体の容量価格を引き上げた。Reutersの分析によれば、2024年に1メガワット日あたり28.92ドルだった容量価格が、2026年には329.17ドルに跳ね上がった。これは10倍を超える上昇だ。

電力価格高騰の実態

具体的な事例として、オハイオ州の老舗レンガメーカーBelden Brick Companyが挙げられる。141年の歴史を持つ同社の月額電気代は、1,600ドルから12,000ドルへと約7.5倍に膨れ上がった。主因は月額容量料金(capacity charge)の引き上げである。容量料金は発電所の維持費用を需要家で分担する仕組みで、データセンター需要による供給予備力の逼迫が直接的に上昇をもたらしている。

鉄鋼業界への影響はさらに深刻だ。米鉄鋼協会(Steel Manufacturers Association)は、PJM地域に集中する鉄鋼メーカーが年間数千万ドル規模の追加電力コストを負担していると警告する。電気代は鉄鋼生産コストの20〜40%を占める。各電炉の運転電力負荷は40〜200MWに及び、全米鉄鋼産業はピーク時に最大11GWの電力を消費する。

オハイオ州の鉄鋼メーカーMetallusは、2024年以降で電力コストが70%上昇したと報告している。同社の年間追加負担は1,500万ドルに達する。Ars Technicaの記事によれば、データセンター建設が鉄鋼需要を年間約100万トン生み出している一方で、操業コストを押し上げる逆効果も生んでいるという。

PJMは2027年から管轄地域内で電力需要が供給力を6.6GW上回ると予測している。これは原子力発電所6基分以上に相当する規模だ。Wall Street Journalの報道でも、系統の逼迫が鉄鋼業界幹部から停電リスクの警告を引き出している。

製造業への影響

電力コスト上昇に対し、一部の製造業者は製品価格への転嫁で対処している。しかし、国際競争にさらされる業種では価格転嫁が困難だ。Reutersは、一部企業が工場移転を検討し始めたと報じている。ラストベルトから電力コストの低い南部や国外への移転は、雇用喪失と地域経済の空洞化を招く。

鉄鋼業界からは、系統の逼迫が生産停止(outage)のリスクを高めるとの懸念が表明されている。特に夏季のピーク時には、データセンターと工場が限られた電力を奪い合う構図が鮮明になる。データセンターは24時間365日の安定稼働が求められるため、系統運用者は製造工場の負荷を遮断する可能性がある。

この状況は、トランプ政権の関税政策とも矛盾を生む。関税で輸入鉄鋼を制限しても、国内生産コストが上昇すれば価格競争力は損なわれる。結果として、自動車や建設資材など下流産業にも影響が波及する。

トランプ政権のジレンマ

トランプ大統領は選挙戦で「Made in America」を掲げ、製造業の雇用回復を公約した。同時に、AI大国としての地位を維持するため、データセンター建設を推進してきた。Ars Technicaの報道は、この二つの政策が相互に幹渉し始めた実態を浮き彫りにしている。

政権内部では、エネルギー省による発電所増設の認可加速や、PJMの市場設計見直しが検討されている。しかし、送電線建設には10年単位の時間がかかる。既存の火力発電所は環境規制で閉鎖が進み、原子力発電所の新設も遅れている。短期的な解決策は限られている。

データセンター業界も対応を迫られている。主要なハイパースケーラー各社は再生可能エネルギーへの投資を表明しているが、現実には系統に連系するまでのリードタイムが長い。天然ガス火力の即時増設も、環境団体からの反発は必至だ。

今後の展望

PJM地域の電力市場は2027年以降、供給力不足が常態化する見通しだ。容量価格の高止まりは避けられず、製造業のコスト構造は恒久的に変化する可能性がある。鉄鋼業界の試算では、既存工場の存続が困難になるケースも想定される。

中長期的には、送電線の増強や分散型エネルギーリソースの導入が課題となる。データセンター自身が蓄電池や自家発電設備を備える動きも加速するだろう。しかし、これらの投資は最終的にAIサービスのコストに転嫁される。

Ars Technicaの分析は、米国が半導体製造と同様に、AIインフラと製造業の間で資源配分の最適化を迫られていることを示している。電力という不可欠な資源を巡る競争は、政策の優先順位を根本から問い直す契機となる。

編集部の見解

短期的には、データセンター建設ブームが続く限り、ラストベルトの電力コスト上昇は不可避だ。2027年までの供給力不足が現実化すれば、製造業の競争力低下が顕在化する。投資家は、エネルギーコストに敏感な産業セクターの収益見通しを下方修正する必要がある。

長期的な視点では、AI産業と製造業の共存には送電網の大規模拡張が必須だ。しかし、許認可プロセスや用地確保の困難さを考慮すれば、10年規模の時間がかかる。再生可能エネルギーや小型モジュール原子炉の導入が進まなければ、両者のトレードオフは深刻化する。

編集部としては、AI推進と製造業保護の両立が単なる政策スローガンではなく、電力系統という物理的制約に直面した現実的な調整課題であることを指摘したい。トランプ政権は、データセンター誘致のための税制優遇と製造業支援の間で具体的な優先順位を示す必要がある。この問題は、日本のデータセンター誘致政策にも示唆を与えるものと言えそうだ。

参考

出典: Ars Technica

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