サンドイッチ店IPO書類に「AI」22回 投資家熱狂の実態
サンドイッチチェーンJersey Mike'sのIPO書類に「人工知能」という単語が22回出現。AIバブルが業種を超えて投資家の関心を歪めている実態が浮き彫りになった。
新たなテクノロジーに対する現実的な興奮が、いつ過熱した誇大広告に変わり、さらに冷笑の対象へと転じるのか。その明確な境目を指摘することは難しい。しかし、サンドイッチチェーンがIPO書類の中で人工知能について言及する時点で、その瀬戸際に達していると言わざるを得ない。
米サンドイッチチェーン Jersey Mike’s のIPO書類を、TechCrunchの記者が興味本位で調査したところ、驚くべき事実が明らかになった。サンドイッチを販売する同社のS-1書類において、「人工知能(Artificial Intelligence)」およびその略称「AI」という単語が 22回 も使用されていたのである。
投資家の欲望が生む歪み
投資家の間でAI関連企業への資金流入が加速する昨今、テクノロジー企業が自社のピッチに「AIの香り」を振りかける必要性は理解できる。ベンチャーキャピタルを募る非AIスタートアップにとっても同様であり、老朽化した非AI企業を買収して再生するBending Spoonsのような企業の株式公開でさえ、AIの要素が強調される傾向にある。
Jersey Mike’sのIPO書類にAIが22回も登場した背景には、投資家が本当に求めているのがサンドイッチではなくAI製品であるという市場構造がある。同社はAIソフトウェアを販売しているわけではない。現実の具材を使ったサンドイッチを提供する企業だ。それでもなお、書類の中にAIへの言及を織り込む方法を見出した。
リスク警告にまでAIが登場
特に注目すべきは、投資家向けリスク警告のセクションにAIが登場している点だ。同社は具体的にどのようなAI利用が投資家にとって危険をもたらすかを説明していない。単に「当社は事業においてAIテクノロジーの利用を開始している」という漠然とした表現に留まっている。
公正に評価すれば、フランチャイズを運営する企業として、Jersey Mike’sも他の企業同様にソフトウェアへの依存度は高い。書類中ではソフトウェアが52回、データが112回言及されている。AIに関するリスク警告についても、ひな型のコピーを使用したものであり、ある意味では必要不可欠な記載とも言える。
実際、食品業界ではAI関連のトラブルが既に発生している。Starbucksが導入したAI在庫管理ツールは適切に在庫をカウントできず、最近になって廃止された。こうした前例を考慮すれば、Jersey Mike’sのAIリスク警告は、弁護士が標準的に求める保険的な記載である可能性が高い。
天候リスクとの比較が示す矛盾
TechCrunchの記者は、現実のサンドイッチを製造する企業にとってAI災害のリスクは、フランチャイズ店に落雷が直撃する確率と同程度ではないかと指摘する。実際、2021年にはテキサス州のJersey Mike’s店舗に落雷が直撃した事例がある。しかし、IPO書類において「天候」という単語はわずか5回の言及に留まり、「落雷」については一度も言及されていない。
この対比は、AIというキーワードが投資家の関心を引き付けるために、実際の事業リスクとのバランスを超越して乱用されている現状を如実に示している。
編集部の見解
本件は、AIバブルが実体経済の隅々にまで浸透していることを示す象徴的な事例だと評価できる。短期的には、IPOを目指す非テック企業がこぞってAI関連の言及をS-1書類に盛り込む動きが加速するだろう。法律事務所やコンサルティング企業が「AI対応IPOテンプレート」を商品化する可能性も否定できない。Jersey Mike’sの事例が模倣されればされるほど、AIバブルはさらに膨張し、実態のないAI企業への投資が拡大するリスクが高まる。 長期的な視点で見ると、この現象は2つのシナリオを想起させる。1つは、ドットコムバブル期に企業名に「.com」を付ければ株価が上昇した時代の再現。もう1つは、AIが本当に全業種に浸透する基盤技術である証左。過去のITバブルの教訓を踏まえれば、焦土と化すのは誇大広告に飛びついた投資家と、実質のないAIを標榜した企業に他ならない。 編集部として問いたい。Jersey Mike’sが実際にAIを活用している分野を具体的に説明できないとしたら、その22回の言及は何の価値を生むのか。
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