中国製LFP電池で最安EV、Slateが実現
米国新興メーカーSlateが約2.5万ドルの電気トラックを発表。中国で量産が確立されたLFPバッテリーを採用し、トランプ政権による税額控除撤廃が採用を後押しした皮肉な構図が浮かび上がる。
米国新興自動車メーカーのSlateは、ベース価格約25,000ドルの小型電気トラックを発表した。これは米国市場で最も安価な電気自動車(EV)の一つとなる。Wiredの報道によれば、同社が低価格を実現できた背景には、中国で生産技術が確立されたリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーの採用がある。さらに、トランプ政権下でのEV税額控除制度の変更が、結果的に中国製バッテリーへの依存を促進したという皮肉な構図が浮かび上がる。
低価格の鍵となったLFP
米国におけるEVの平均販売価格は約55,000ドルに達する。Slateの新モデルはその半分以下の水準だ。もちろん、ベースモデルは極めてシンプルで、パワーウィンドウやスピーカーなど多くの装備が有料オプションとなる。
この驚異的な低価格を可能にした最大の要因は、LFPバッテリーパックの採用にある。LFPはニッケル・マンガン・コバルト(NMC)系バッテリーと比較してエネルギー密度は低いものの、コバルトなどの高価なレアメタルを必要としないため、材料コストを大幅に削減できる。
LFPの基本原理は1960年代に米国の研究者が発見した。しかし、欧米のバッテリーメーカーはより高エネルギー密度を追求するNMC系に注力した。一方、中国メーカーはLFPの安定性と低コストに着目し、大規模な量産体制を構築した。
ロンドンの調査会社Benchmark Mineral Intelligenceのデータによれば、現在、世界のLFPカソード生産の97.8%が中国で行われている。つまり、LFPバッテリーを搭載しようとすれば、事実上中国のサプライチェーンに依存せざるを得ない。
政策変更がもたらした逆説
Slateが当初LFPバッテリーを採用しなかった理由は、2022年に成立した気候変動関連法(IRA)にある。同法は最大7,500ドルのEV購入税額控除を創設したが、その条件としてバッテリーの米国内組立と、特定の原材料を米国や同盟国から調達することを義務付けた。特に、中国やロシア、イラン、北朝鮮を「懸念される外国事業体」と指定し、これらからの調達を事実上排除していた。
この条件下では、中国に依存するLFPバッテリーの採用は税額控除の対象外となるリスクがあった。そのため、FordがCATLと提携して米国内でLFPバッテリーを製造する計画を発表するなど、各社は国内生産の道を模索した。
しかし、トランプ政権がこれらの税額控除条件を撤廃したことで状況は一変した。Slateは中国から供給されるLFPバッテリーを抵抗なく採用できるようになった。結果として、トランプ政権による規制緩和が、中国のバッテリー技術への依存を加速させることになった。
米国メーカーのLFPシフト
Slateの動きは孤立したものではない。低価格EVを目指す複数の米国メーカーがLFPバッテリーへの移行を進めている。FordはCATLと提携した米国内工場の建設を進めており、Teslaも中国製LFPバッテリーを一部モデルに採用している。
LFPはNMCに比べてエネルギー密度が低いため、航続距離で妥協を強いられる。しかし、都市部での短距離移動や、コストを最優先するユーザー層には十分な選択肢となる。Slateのベースモデルは航続距離を犠牲にしながらも、25,000ドルという価格でEV市場に新たな選択肢を提供する。
中国のバッテリー支配
LFPバッテリーを巡る現在の状況は、中国の製造能力の強さを如実に示している。中国企業はLFPカソードの生産だけでなく、鉱山からの原材料調達、加工、最終組立に至るまで、一貫したサプライチェーンを構築した。BYDやCATLといった中国EV大手は、この技術を軸に世界市場での存在感を急速に高めている。
米国政府の政策は、国内産業保護と低価格EVの普及の間で揺れ動いている。トランプ政権による税額控除撤廃は短期的には低価格EVの市場投入を促進したが、長期的には中国への依存度を高める結果につながった。
編集部の見解
短期的に見れば、Slateの25,000ドルEVは米国市場における価格競争の火付け役となる。既存メーカーは対抗手段としてLFP採用の加速を迫られ、結果として中国製バッテリーへの依存がさらに進む可能性が高い。3〜6カ月の間に、他の低価格EVモデルが同様の戦略を取る事例が増加すると予想される。
長期的な視点では、このトレンドは米国のバッテリーサプライチェーン戦略に深刻な問題を突き付ける。国内生産を促進しようとしたIRAの意図が、政策の不安定性によって損なわれた。1〜3年のスパンで、米国がLFP以外の代替技術(ナトリウムイオン電池など)で優位性を確立できるかどうかが、産業競争力の分水嶺となる。
編集部としては、政策の一貫性と産業保護のバランスが問われていると考える。低価格EVの普及と中国依存のリスクを天秤にかけたとき、米国はどのような戦略を取るべきか。Slateの事例は、短期的な市場の利益と長期的な産業安全保障のトレードオフを鮮明に示している。
参考
- Wired — 2026-07-02T11:00:00.000Z公開
よくある質問
- LFPバッテリーとは何か
- リン酸鉄リチウムを正極材料に用いたリチウムイオン電池。NMC系と比較してエネルギー密度は低いが、コバルトのような高価な材料を使わないため低コストで、熱安定性に優れ安全性が高い。中国が生産の97.8%を占める。
- SlateのEVはなぜ25,000ドルという低価格を実現できたのか
- 最大の要因は中国製LFPバッテリーの採用。NMC系より材料コストが低い上、トランプ政権による税額控除の国内調達要件撤廃により、輸入品でも制約なく使えるようになった。装備を極限まで削ったベースモデルであることも価格低減に寄与する。
- トランプ政権の政策変更がなぜ中国製バッテリーの採用を促進したのか
- 2022年のIRAが定めた税額控除は、バッテリーの国内組立や中国からの材料調達制限を条件としていた。トランプ政権がこれらの要件を撤廃したことで、中国から直接供給されるLFPバッテリーを採用しても税制上の不利益が生じなくなり、Slateのような新興メーカーが容易に採用できるようになった。 ## 参考 - [How Trump Helped China Make America's Cheapest EV | Wired](https://www.wired.com/story/how-trump-helped-china-make-slate-americas-cheapest-ev/) — 2026-07-02公開
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