スペインFOSSA、衛星通信拡大へ約10.5億円調達
スペインのスタートアップFOSSA Systemsが約1050万ドルを調達。政府系基金SETTも参加し、低軌道キューブサットによる主権衛星通信網の構築を加速する。欧州の宇宙インフラ自律化の動きが活発化。
スペインの宇宙スタートアップFOSSA Systemsが、衛星通信コンスタレーションの拡大に向けて約1050万ドル(約15億円)の資金調達を発表した。Space Newsの報道によれば、この調達にはスペイン政府系の基金が一部関与しており、欧州における宇宙インフラの主権確立を目指す動きが加速している。
資金調達の背景
FOSSA Systemsが今回の資金調達を発表したのは2026年6月24日。リードインベスターはスペインのプライベート投資会社Kibo Venturesが務めた。特筆すべきは、スペイン政府の技術変革を推進する機関であるSpanish Society for Technological Transformation(SETT)も出資に加わった点だ。SETTは約1年前に、同じくスペインの衛星通信ネットワーク開発企業Sateliotに対して1400万ユーロを注入している。Sateliotは安全保障および防衛用途の衛星コネクティビティ網を手掛けており、FOSSAへの出資はスペイン政府の宇宙分野への一貫した戦略投資の一環と位置づけられる。
FOSSA Systemsの累計調達額は今回のラウンドにより約2000万ユーロに達した。2019年に設立された同社は、設立から6年で着実に資金を集めてきた。
ピコサテライトからキューブサットへ
FOSSA Systemsはこれまで、低消費電力の監視デバイスを接続するための超小型衛星「ピコサテライト」を運用してきた。今回の資金調達により、同社は低軌道(LEO)においてより大型の「キューブサット」を展開する計画だ。この移行は、通信容量の拡大と新たな機能の追加を可能にする。
具体的には、主権通信(sovereign communications)や宇宙ベースの情報収集(space-based intelligence)といった能力を強化する狙いがある。欧州域内で自国の衛星インフラを持つことは、外部の衛星通信事業者に依存しない自律的な通信手段の確保につながる。
欧州宇宙主権の流れ
FOSSA Systemsの資金調達は、欧州における宇宙主権を目指すスタートアップへの投資ラッシュの一環である。Space Newsの報道によると、オーストリアの推進系スタートアップGate Spaceは、欧州委員会が支援するアクセラレータプログラムから今月630万ユーロを調達している。Gate Spaceは宇宙機向けの推進システムを開発しており、欧州域内での宇宙技術の自律性向上に寄与する。
欧州各国は近年、米国や中国に依存しない独自の宇宙インフラ構築に積極的だ。特に衛星通信の分野では、SpaceXのStarlinkが世界的に支配的な地位を築いていることへの警戒感が広がっている。欧州連合(EU)もIRIS²(Infrastructure for Resilience, Interconnectivity and Security by Satellite)と呼ばれる衛星コンスタレーションプロジェクトを推進しており、官民を挙げた宇宙主権の確保が重要な政策課題となっている。
FOSSAのCEOが見据える展望
FOSSA SystemsのCEO兼共同創業者であるJulián Fernández氏は、今回の資金調達について「我々の目標は、FOSSAを欧州の主権的宇宙インフラにおけるベンチマークとして確立することだ」とコメントしている。この発言は、単なる商業的成功だけでなく、欧州全体の戦略的な自律性に貢献する意志を示している。
FOSSA Systemsの技術は、産業用IoT、農業、環境監測、エネルギーインフラの遠隔監視など、幅広い分野での応用が期待される。特に、地上の通信インフラが未整備な地域や、災害時のバックアップ通信手段としての需要が高まっている。
衛星通信市場の競争激化
衛星通信市場は、StarlinkやAmazonのProject Kuiperなど大手企業による大規模コンスタレーション計画が進行する一方で、各国や地域ごとの主権重視の動きも加速している。欧州では、フランスのEutelsatと英国のOneWebの合併、ドイツのRivada Space Networksなど、地域特性を生かした取り組みが相次いでいる。
FOSSA Systemsのようなスタートアップが政府系資金を得られる背景には、衛星通信が安全保障や災害対策、デジタルデバイド解消といった公共性の高い領域と直結している事情がある。民間企業単独では採算性の課題が残る分野でも、政府の戦略的関与により事業の持続可能性が高まる。
技術的課題と今後の工程
ピコサテライトからキューブサットへの移行には、技術的なハードルが存在する。ピコサテライトは重量1kg未満の超小型衛星で、コストと開発期間の面で優位性があるが、搭載できるペイロードや通信能力に制約がある。一方、キューブサットは10cm立方を基本単位とし、複数ユニットを連結することで機能を拡張できる。
FOSSA Systemsはまず、より大型の衛星バスに対応した設計と製造体制の構築が必要となる。また、低軌道への衛星打ち上げにはロケットの確保が不可欠であり、欧州のアリアン6やベガCといったロケットの運用状況、さらにはスペースXのFalcon 9のような民間ロケットの活用も検討する必要がある。
Julián Fernández氏は今回の資金調達に関する声明の中で、具体的な打ち上げ時期や衛星の機数については明言を避けているが、今後数年のうちに初期のキューブサットを軌道に投入し、サービスを開始する計画とみられる。
スペイン宇宙産業の全体像
スペインの宇宙産業は、欧州宇宙機関(ESA)の拠点がマドリード近郊に置かれるなど、歴史的に一定の地位を占めてきた。しかし、衛星コンスタレーションの分野では、米国や中国に大きく遅れを取っている。SETTによるSateliotやFOSSA Systemsへの投資は、このギャップを埋める狙いがある。
Sateliotは、NB-IoT(狭帯域IoT)規格を用いた5G非地上ネットワーク(NTN)の商用化を目指しており、2024年には試験衛星の打ち上げに成功している。FOSSA Systemsも同様のIoT向け衛星通信サービスを提供しており、両社はスペインにおける衛星通信の双璧として位置づけられる。政府としては、両社への投資を通じて競争と技術進化を促進する戦略とみられる。
編集部の見解
今回のFOSSA Systemsへの資金調達は、短期的には欧州スタートアップの宇宙分野への資金流入が続くことを示すものだ。スペイン政府がSETTを通じて積極的に関与する姿勢は、他の欧州諸国にも波及し、各国政府が宇宙主権を名目に自国企業への投資を加速させる可能性がある。今後3〜6カ月で、同種のスタートアップの調達ラウンドが相次ぐと予想される。 長期的には、欧州が衛星通信インフラを自前で整備する動きは、Starlinkの市場支配に一石を投じることになる。しかし、FOSSA Systemsのような小規模プレイヤーが、大規模コンスタレーションを持つ競合に対抗するには、技術的な差別化とニッチ市場への集中が不可欠だ。キューブサットによるIoT向け通信は、大容量通信を必要としないアプリケーションに限定されるため、Starlinkとの直接競合ではなく補完関係を築けるかどうかが鍵となる。
参考
よくある質問
- FOSSA Systemsはどのような技術を開発しているのか
- IoTデバイス向けの超小型衛星通信ネットワークを構築している。従来はピコサテライト(1kg未満の超小型衛星)を用いていたが、今回の資金調達により低軌道のキューブサットに移行し、より大容量の通信と情報収集能力を目指す。
- スペイン政府のSETTとは何か
- Spanish Society for Technological Transformationの略。スペイン政府が技術変革を推進するために設立した基金で、宇宙分野を含む戦略的産業への投資を行っている。今回のFOSSA Systemsへの出資は、同機関による宇宙分野への2件目の投資となる。
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