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脳腫瘍疑いの診断、実は寄生虫だった症例報告

スペインの60歳男性の頭痛と行動変化の原因を医師らが調査した結果、転移性脳腫瘍の疑いから、最終的に有鉤条虫の幼虫が脳内に寄生する「脳囊虫症」と診断された症例が報告された。

4分で読める SINGULISM 編集チームが確認・編集

脳腫瘍疑いの診断、実は寄生虫だった症例報告
Photo by Shawn Day on Unsplash

スペイン在住の60歳男性が、2週間前から悪化する頭痛と行動の微妙な変化を訴えて医療機関を受診した。神経学的検査では軽度の動作遅延が認められたが、他の明らかな欠損は見られなかった。血液検査ではIgE値が上昇しており、アレルギー、自己免疫疾患、寄生虫感染に関連する免疫応答が示唆された。医師らは頭部CTスキャンを実施し、脳全体に複数の病変とそれに伴う浮腫を確認した。

本症例は学術誌Emerging Infectious Diseasesに症例報告として掲載された。医療チームは免疫不全状態ではなく、国際的な渡航歴もない点を踏まえ、診断の最有力候補として転移性脳腫瘍を疑った。

腫瘍検索の過程と転機

頭痛に対して抗炎症性コルチコステロイドを投与したところ、症状は一時的に改善した。医師らは脳への転移を想定し、全身造影CT、大腸内視鏡検査、PET/CTを組み合わせた大規模な検査を実施した。しかし、これらの検査では悪性腫瘍は発見されなかった。

MRIによる確定診断

再度の脳画像診断として、より詳細なMRIスキャンが行われた。MRI画像では、病変は腫瘍ではなく、被包化された条虫の幼虫であることが明確に確認された。画像上、虫体の頭部(scolex)が視認できたという。

感染経路の特定

医師らを驚かせたのは、当該条虫がスペインでは常在していない点と、患者に海外渡航歴がなかった点である。感染経路として、患者が10年前に引退するまで従事していた建設現場での曝露が疑われた。患者は条虫(有鉤条虫)の常在地域から移住してきた労働者と共に作業していた。糞口経路で感染する本寄生虫は、職場での食事やトイレの共有による稀な感染があった可能性が推定されている。

有鉤条虫の感染メカニズム

有鉤条虫は二通りの感染経路を持つ。一つは加熱不十分な豚肉中のシスチセルカス(幼虫)を摂取する方法、もう一つは糞便汚染による虫卵の経口摂取である。豚が虫卵を含む糞便を摂取すると、小腸で孵化した幼虫が腸壁を貫通して血流に乗り、全身の組織や筋肉へ移動して被包化された幼虫(シスチセルカス)を形成する。人がこの感染豚肉を生または加熱不十分な状態で食べると、幼虫は腸管内で成虫に成長し、長期間生存し続ける可能性がある。

編集部の見解

本症例は、画像診断技術の高度化にもかかわらず、診断の初期段階で転移性腫瘍が最有力候補となった点に示唆がある。MRIによる精査がなければ、患者は不必要な生検や抗癌治療を受けていた可能性がある。短期的には、画像診断における寄生虫感染の鑑別診断の重要性が再認識されるだろう。

長期的な視点では、AIによる画像認識技術がこうしたパターン認識を支援できる可能性がある。腫瘍と囊胞性病変の鑑別は、教師あり学習モデルの訓練データとして有用な課題と言えそうだ。また、国際的な労働移動に伴う非風土病地域での寄生虫感染症の増加は、公衆衛生上のリスク評価手法の見直しを促す可能性がある。

労働環境における感染症リスク評価は、いまだ十分に体系化されていない領域だ。企業の健康管理部門において、従業員の職場接触歴や渡航歴だけでなく、間接的な曝露経路まで考慮したリスク評価が運用されるべきかどうか、議論が必要な段階にある。

参考

出典: Ars Technica

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