エディタ戦争再訪、Emacs回帰の波
Emacsは今も使われているのか。この問いを巡り、長期ユーザーがVSCodeから再びEmacsへ戻った理由と、テキストエディタをめぐる開発者コミュニティの動向を分析する。
Emacsは今なお使われているのだろうか。この問いが、LobstersやHacker Newsといった開発者コミュニティで再燃している。発端は「Emacs 31 Is Around the Corner: The Changes I’m Already Daily Driving」という記事で、次のメジャーリリースを目前にしたEmacsの変更点が紹介されたことだ。その議論の中で「今時Emacsを使っている人はいるのか」という素朴な疑問が浮上し、多くの開発者が自らの体験を語った。
30年にわたるエディタ遍歴
jmmv.devに投稿された記事では、著者が約30年にわたる自身のエディタ遍歴を詳述している。同氏は1997年、Caldera OpenLinux 1.1を契機にLinuxの世界に入った。それまではBorland Turbo C++やVisual Basicといった統合開発環境(IDE)に親しんでいたが、Linux移行後にVimとEmacsの双方を学び、状況に応じて使い分けるようになった。
1990年代後半から2015年頃まで、著者はVimとEmacsの間を行き来していた。長時間のコーディングにはEmacsを好み、pkgsrc作業など多数のファイルを素早く編集する場面ではVimを活用した。この「エディタ戦争」とも呼ばれる二大勢力の間での往復は、当時の多くの開発者に共通する体験だ。
VSCodeとIntelliJへの移行
しかし、言語統合の貧弱さに不満を感じた著者は、よりモダンなエディタを模索し始める。AtomやBracketsなどの現在は開発が終了したエディタも試したが、いずれも多機能すぎて扱いづらかったという。
転機は2015年、Visual Studio Code(VSCode)の登場だった。VSCodeはモダンな外観で比較的小さく、設定がJSONファイルとして管理されている点に著者は好感を持った。特に言語サーバープロトコル(LSP)との統合が容易で、GoやRustなどの言語におけるコード補完やリアルタイムエラーハイライトが学習効率を大幅に向上させた。著者はVSCodeに傾倒し、Emacsを徐々に使わなくなっていった。
同時期、著者はGoogleでBazel(Javaプロジェクト)に従事しており、その開発にはIntelliJが自然な選択だった。EmacsでのJava開発も試みたが、IntelliJのリファクタリング機能やデバッグ統合には及ばなかったと振り返る。
Emacsへの回帰
だが、著者は現在「Emacsを再び使い始めている」と明言する。長期間VSCodeやIntelliJを使った後、なぜEmacsに戻ったのか。その理由として、著者は「特定の機能が自分にスーパーパワーを与えてくれる」と述べている。元記事ではその詳細を最後に明かすと予告されている。具体的な機能については言及を避けるが、Emacsの拡張性、キーバインディングの自由度、そしてテキスト操作の深さが、特定のワークフローにおいて他を圧倒するという主張は、長年Emacsを使い続けるユーザーからしばしば聞かれるものだ。
開発者コミュニティの声
Hacker Newsのスレッドでも、多くの開発者が現在もEmacsを使い続けている理由を語っている。主な理由としては、Org-modeによるタスク管理と文書作成の統合、MagitによるGit操作性の高さ、そしてEmacs Lispによる無限のカスタマイズ可能性が挙げられる。一方で、VSCodeへの移行を決めた理由として、標準で高品質なLSP対応、デバッガとの統合、そして豊富な拡張機能エコシステムが挙げられている。
Emacs 31のインパクト
Emacs 31では、ネイティブコンパイルのさらなる改善、GC(ガベージコレクション)の効率化、そしてWaylandサポートの強化などが予定されている。これらの改善により、起動速度や応答性が向上し、モダンなデスクトップ環境との親和性も高まる。Emacsの開発は依然として活発であり、コミュニティの規模も縮小していない。
編集部の見解
短期的には、Emacs 31のリリースを契機に、過去にEmacsを離れた開発者の一部が再評価する動きが出ると見られる。特にOrg-modeやMagitといった他に代えがたい機能を持つユーザー層は、VSCodeやIntelliJでは得られない作業効率を求めて回帰する可能性がある。 長期的視点では、テキストエディタのエコシステムは「一つのエディタに全てを求める」時代から、「目的に応じて複数のエディタを使い分ける」方向へ進化している。Emacsはそのカスタマイズ性と持続可能性から、特定のワークフローに特化したニッチなツールとしての地位を確立するだろう。一方で、VSCodeやJetBrains系IDEは汎用的な開発環境として主流であり続ける。 編集部としては、エディタ選択は宗教的な争いではなく、タスクと個人の思考スタイルに合わせた道具選びであるべきだと考える。Emacsへの回帰現象は、単なるノスタルジーではなく、複雑なテキスト操作を伴うワークフローにおいて、モダンIDEでは代替できない価値が存在することを示している。
参考
- Lobsters — 2026-06-20T18:47:52.000Z公開
よくある質問
- EmacsはVSCodeに比べてどのような利点があるのか
- Emacsの最大の利点は、Emacs Lispによる徹底的なカスタマイズ性と、Org-modeやMagitなど特定のタスクにおいて極めて強力なパッケージ群が存在することです。一方で、標準状態でのLSP統合やデバッグ機能はVSCodeに劣るため、設定に時間をかけられるユーザーに向いています。
- 2026年現在、新規でEmacsを学ぶ価値はあるか
- 一般的なWeb開発やモバイルアプリ開発ではVSCodeで十分ですが、大量のテキスト処理や複雑なリファクタリングを頻繁に行う場合、Emacsの学習曲線を乗り越える価値はあります。特にOrg-modeによるタスク管理と文書作成の統合は他に類を見ません。 ## 参考 - [Is anyone still using Emacs? | jmmv.dev](https://jmmv.dev/2026/06/is-anyone-still-using-emacs.html) — 2026-06-20公開 - [Emacs 31 Is Around the Corner: The Changes I'm Already Daily Driving](https://www.lemni.dev/2026/emacs-31/) — 元議論の発端となった記事(外部)
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