Google AI戦略の迷走、重複製品と組織の混乱が浮き彫りに
Googleから重要人物が相次いで退社し、AIエージェント分野で後れを取る。Gemini 3発表から半年、組織構造の混乱がフルスタック優位性を損なっている。
GoogleのAI戦略に深刻なほころびが見え始めている。1週間も経たないうちに、Google DeepMindのエンジニアリング担当副社長ノーム・シャジアー(Noam Shazeer)と、AlphaFoldのコア責任者ジョン・ジャンパー(John Jumper)という2人の重要人物が相次いで退社した。この人材流出は、同社のAI開発体制に内在する問題を如実に示している。
Gemini 3の発表から半年以上が経過した現在も、Googleが提供するのは小幅な改良に留まるGemini 3.1のみだ。一方で競合Anthropicは、半年前にOpus 4.5だったモデルを、今ではFable 5へと進化させている。モデル開発の遅れは製品面でも顕著で、OpenAIのCodex、AnthropicのClaude CodeといったAIエージェント製品が市場を席巻する中、Googleは実用的なエージェント製品を十分に提供できていない。
フルスタック優位性の消滅
かつてGoogleは、他社が持たない独自のフルスタック優位性を誇っていた。ハードウェア面では、2015年から自社開発を続けるTPUチップがある。第7世代Ironwoodは、1チップで従来の4チップ分の演算能力を持ち、液冷冷却を採用。1ポッドに9216チップを収容し、42.5エクサフロップスの演算能力を提供する。汎用GPUと異なりAI推論タスクに特化して最適化されており、コスト面でも競争力を持つ。
その上の層には、2023年4月にGoogle Brainと統合されたDeepMindが位置する。ハサビスの指揮下で「左脳と右脳」が統合され、研究と製品開発の連携が期待された。さらにその上の層には、Chrome、Android、YouTube、Gmail、Google Workspace、Google Searchといった日間アクティブユーザー数十億規模のプラットフォーム群がある。これらの入口を通じて製品を展開し、ユーザーフィードバックを収集できる点が、Googleの最大の武器だった。
このフルスタックの好循環は、画像生成モデルNano Bananaにおいて明確に発揮された。LM Arenaのようなブラインドテスト環境で話題になった直後、Googleは即座に同モデルをGemini App、AI Studio、Gemini API、さらには企業向けVertex AIに展開。各製品から得られるフィードバックを活用し、異常な速度で製品を反復させ、GPT-4oの画像生成能力を圧倒した。
しかし、AIエージェント領域ではこの好循環が機能していない。画像生成が「ユーザーに結果を与える」だけの低リスク・短チェーンな製品であるのに対し、エージェントはユーザーの作業環境に駐在し、継続的にコンテキストを読み取り、ツールを呼び出し、操作を実行し、最終結果に対して責任を負う必要がある。製品がモデル、権限、実行環境、エンタープライズシステム、長期的責任をまたがる必要があるとき、Googleのフルスタック能力は協調の問題を露呈する。
組織の混乱が生む製品の重複
Googleの開発者向け製品ラインを見ると、組織構造の混乱が端的に表れている。同社はAIでコードを書くためのツールを複数同時に持っているが、製品機能はほぼ重複している。
Gemini CLIは、コードベースの確認、アプリ生成、複雑なフローの自動実行が可能なコマンドラインツールとして2025年末に発表された。しかし2026年6月には、Gemini CLIがAntigravity CLIに置き換えられることが発表された。Julesは非同期コーディングエージェントで、Google Labsの製品。バグの自動修正、テストの記述、プルリクエストの提出を自律的に行う。Code AssistはGoogle Cloud傘下のエンタープライズ向けプログラミングアシスタントで、VS CodeやJetBrainsに組み込まれ、月額22.8〜54ドルのサブスクリプションで利用可能。Firebase Studioはブラウザ上のフルスタック開発ワークベンチで、Geminiが内蔵されている。そしてAntigravity 2.0が2026年5月のI/Oカンファレンスで発表され、デスクトップアプリ、CLI、SDK、マネージドエージェント、エンタープライズ層の5ブロックに分かれている。
これらはすべて同じ目的を持つが、異なるチームが開発し、異なるブランド名、異なる入口、異なる課金モデルを持ち、中には互いに置き換え合うものもある。この状況は製品ラインの豊富さではなく、演算能力の無駄遣いと言わざるを得ない。
組織のサイロ化が生む不和
この問題の根源は、GoogleのAIエージェント関連能力が少なくともいくつかの互いに統属しない組織に分割されている点にある。各組織には独自のKPIと独立した報告ラインがある。
Google DeepMindは、モデルのベンチマークスコアがGPTやClaudeを上回るかどうかを管理する。DeepMindの成功指標は「最も強力なモデルを作った」ことであり、ユーザーがAntigravityで実際のプロジェクトを完了する成功率には関心を持たない。Google Labs部門は、製品がクールかどうか、ソーシャルメディアで話題になるかどうかだけを気にする。実験が終わり熱が冷めれば、チームは次の実験に移り、製品を長期的に維持することはない。Google CloudとVertex AIは、モデルがAPI経由で呼び出せるか、企業が購入できるか、権限とコンプライアンスがカバーされているか、エージェントが本番環境にデプロイできるかを管理する。
このサイロ化された組織構造が、製品の一貫性を損ない、開発リソースの分散を招いている。各組織が自らのKPIを最大化しようとする結果、ユーザー視点での統合された体験が提供できないというパラドックスが生じている。
バフェットの投資判断への疑念
興味深い動きとして、バークシャー・ハサウェイが2025年からGoogle株の買い付けを開始し、2026年第1四半期にはさらに224%の追加購入を行った。2026年6月1日には第三者割当増資の形でAlphabetにさらに100億ドルを投資した。ウォーレン・バフェットが見誤ったのか、それともGoogleの潜在力を正しく評価しているのか、現時点では判断が分かれる。
バフェットの投資哲学は、長期的な競争優位性を持つ企業への投資である。Googleのフルスタック資産は、短期的な迷走を乗り越えれば再び力を発揮する可能性がある。しかし、組織構造の根本的な改革なしには、その優位性をAIエージェント時代に活かすことは難しい。
編集部の見解
短期的に見れば、Googleが対処すべき優先課題は組織構造の再編である。複数のチームが重複する製品を開発し、互いに競合する現状は、リソースの無駄であるだけでなく、外部から見た製品戦略の一貫性を損なう。半期ごとの製品刷新と組織改編を繰り返すのではなく、コード生成ツール群を一本化し、KPIを統一したチームに任せるべきだ。この改革が3〜6カ月以内に実行されなければ、AIエージェント市場での取り返しのつかない遅れを取る可能性が高い。 長期的な視点では、Googleのフルスタック資産は依然として価値を失っていない。数十億のユーザーベース、自社チップTPU、DeepMindの研究力は、適切に統合されれば強力な競争力を発揮する。しかし、画像生成のような短いフィードバックループの製品は成功しても、エージェントのような長いフィードバックループの製品では組織の協調が不可欠だ。今後1〜3年の間に、Googleが組織の壁を越えた真の統合を実現できるかが、同社のAI分野での命運を分けると見る。
参考
- 钛媒体: 接连两位大咖出走,谷歌到底出了何BUG? — 2026-06-20公開
よくある質問
- GoogleのAI開発で最も深刻な問題は何か
- 組織構造の混乱により、複数のチームが重複する製品を開発している点が最も深刻な問題である。Gemini CLI、Jules、Code Assist、Firebase Studio、Antigravityといったコード生成ツールが互いに競合しており、リソースの分散と製品戦略の一貫性欠如を招いている。
- Googleのフルスタック優位性はなぜAIエージェント領域で機能しないのか
- AIエージェントは画像生成と異なり、ユーザーの作業環境に駐在し、ツール呼び出しや操作実行、結果責任といった長いフィードバックループを必要とする。Googleのフルスタック能力は組織間の壁をまたがる協調を必要とする場面で、組織のサイロ化が障害となるため、本来の強みを発揮できない。
- バフェットのGoogleへの大規模投資は正しい判断か
- 短期的には疑問があるものの、長期的視点ではGoogleのフルスタック資産(自社チップ、研究力、巨大ユーザーベース)の価値を評価している可能性がある。組織改革が成功すれば競争力を取り戻せるか否かが、投資判断の正否を分ける。
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