ハサビス「AIは科学の究極の道具」AGI実現へ進化続ける
DeepMind創業者デミス・ハサビスが、AIの科学的役割と将来ビジョンを語る。AlphaFoldの成功を基盤に、AGIの定義と科学の最前線を押し進める可能性を詳述。
DeepMind創業者でノーベル化学賞受賞者のデミス・ハサビスが、AIの科学における位置づけと将来ビジョンについて語ったインタビューが公開された。ハサビスはAIを「知識の最前線を押し進める究極の道具」と位置づけ、物理学の根本問題や生命科学の難題への応用可能性を論じている。
科学者としての原点
ハサビスは自身を「まず科学者」と規定する。キャリア初期にはゲーム用AIの開発やケンブリッジ大学でのコンピューターサイエンス学習を通じてエンジニアとして活動していたが、認知神経科学の博士課程で記憶と想像力を研究する過程で、仮説を立てて実験で検証する科学者の方法論が最も自分に合っていると気づいたという。
ただし、純粋な理論的議論に没頭するのではなく、仮説を検証するための道具や実験を構築する実務的なアプローチを好む。これが「エンジニア脳」の残存であり、AlphaGoやAlphaFoldはこの思考法の典型例だと述べている。
究極の道具としてのAI
ハサビスは人類がまだ解決できていない根本的な科学問題を指摘する。時間とは何か、重力とは何か、それは量子世界とどう統一されるのかといった問いは、過去50年あまり大きく進展していない。その理由の一つは問題の極端な複雑さにある。
AIはこうした難題に対して、膨大なデータの処理や新たな仮説の提案を支援する究極の道具となりうるとハサビスは主張する。さらに、情報こそが物理学の最も基礎的な単位であり、物質やエネルギーよりも根本的であるという仮説を提唱している。
自然界の多くのシステムにはニューラルネットワークが学習できる安定した構造が存在し、AlphaFoldは古典的なコンピューターが従来の理解を超えて複雑な自然システムをシミュレートできることを証明した。将来、古典的なシステムで宇宙をモデル化し、既存の量子理論よりも単純な基底の記述が見つかる可能性にも言及している。
知識の圧縮と探索空間の縮小
計算の限界に関する議論では、コルモゴロフ複雑さやP=NP問題、停止問題に言及し、P≠NPと考える傾向があると述べた。一部の問題は量子コンピューターでしか効率的に解けないが、AIは新たな解法の道を示していると指摘する。
その核心は知識の圧縮にある。大量の事前計算を通じて知識をニューラルネットワークに圧縮し、テスト段階で探索空間を狭めることで、多項式時間内に最適解に近い解を得ることができるという。
具体的な例として挙げられたのがタンパク質折りたたみと囲碁だ。タンパク質には約10^300種、囲碁には約10^170種の可能性があり、全探索は事実上不可能である。AIは規則性を学習し、可能性のごく一部だけを探索して問題解決に成功した。これは技術の変革だけでなく、現実そのものの理解を助けることを示している。
AlphaFoldが変えた生命科学
AlphaFoldは生物学の50年来の難題であったタンパク質折りたたみを解決した。30年から40年の蓄積がある15万個の既知タンパク質構造データに基づき、タンパク質の位相構造の規則性を学習して、原子レベルの精度での構造予測を実現した。
未知のタンパク質構造を数秒で出力でき、チームは2億個の既知タンパク質の予測を完了し、世界中の研究者に無料で公開している。最新のAlphaFold 3は、ほぼすべての主要な分子間の相互作用を予測できるようになった。
将来の目標は、生物学的経路、単純な細胞、細胞小器官、そして最終的には生体全体へと段階的にシミュレーションを拡大することだ。仮想細胞が完成すれば、計算実験の速度はウェットラボを遥かに超え、生物学研究や医薬品開発を根本的に変革するだろう。
科学問題の選定基準
ハサビスのチームが科学問題を選択する基準は3つある。巨大な組合せ空間を持つ問題であること、十分なデータがあるかシミュレーターでデータを生成できること、明確な最適化目標があることの3点だ。
多くの科学問題がこの構造に合致し、チームは新たな分野を切り開く「根ノード」問題を優先的に解決する方針を採っている。タンパク質折りたたみはまさにその典型例にあたる。
数学のように明確な構造がないように見える分野でさえ、現実の記述に由来する豊かな構造を持っているという見方を示している。数学者の直感の本質は長期の蓄積によって形成された暗黙知であり、このプロセスは最終的にAIによってモデル化できる可能性があると述べた。
現在のAIの2つの弱点
ハサビスは現在のAIに2つの主要な弱点があると率直に認める。
1つ目は真の深い創造性の欠如だ。人間の科学者のように、リーマン予想のように真に価値のある独創的な科学問題をまだ提起できない。正しい問題を立てることこそが科学で最も困難な部分であり、この点でAIはまだ人間に大きく劣後している。
2つ目は出力の一貫性の不足である。AIは国際数学オリンピックの問題を解くことができる一方、質問の仕方を変えれば小学校の数学の問題に間違えるかもしれない。人間の科学者にはこのような問題は発生しない。
AGIの定義と実現条件
ハサビスはAGI(汎用人工知能)を、人間の心のすべての認知能力を備えたシステムと定義する。モデルの規模拡大だけでAGIが実現するかどうかは未解決の問題であり、Transformerや深層強化学習のような重大な突破がさらに数回必要かもしれないという見方を示した。
今日の基盤モデルは将来のAGIの中心的な骨格となるが、AGIの実現には象徴的な創造性の火花と厳密な科学的検証の両方が必要だと考える。AIが価値のある新たな物理学理論や数学的予想を提唱し、さらには囲碁のように優雅な新ゲームを発明できる複数の能力の実現が必要だ。同時に、すべての能力の欠陥が解決されたことを尽きないテストで検証する必要がある。
AIの安全原則と将来ビジョン
今後10年間、AIはまず科学者にとって強力な道具となり、人間の専門家が仮説を立てる効率を10倍、さらには100倍に高めることができるとハサビスは見ている。長期的に見れば、AIは真の科学研究パートナーへと徐々に変わっていくだろう。
AIの責任ある発展には、科学的方法の堅持、厳格なテストと検証、展開の二次的影響の事前考慮が求められると強調する。「先に構築して後で質問する」というハッカー文化よりも、科学的方法がAIという影響力の大きい技術にはより適しているという立場だ。
ハサビスが最もAIにもたらしてほしい2つの核心的利益がある。1つは人間の健康の改善、特に恵まれない地域にも恩恵をもたらしながら疾病を克服することだ。もう1つは気候・エネルギー問題への対処の支援、すなわち新材料や新技術の開発、インフラやエネルギーシステムの最適化、生態系変化のモデル化と分析である。
現在の発展速度で進めば、2050年までに人類がAGIを安全に実現し全人類に利益をもたらすことを望んでいる。そうなれば、科学発見の新たな黄金時代に入り、物質と知識が極めて豊かな後AGI文明を迎えるだろうと結んだ。
インタビュー全体を通じて、ハサビスはAIを単なる技術ツールとしてではなく、人類の知的探求を根本的に拡張する存在として捉えている姿勢が鮮明に示された。AlphaFoldの成功はその端的な証左であり、タンパク質構造予測という生物学の難題をAIが解決した実績が、彼のビジョンに具体的な裏付けを与えている。
よくある質問
- AlphaFold 3では何が予測できるようになったのか
- AlphaFold 3では、タンパク質間の相互作用だけでなく、ほぼすべての主要な分子間の相互作用を予測できるようになった。これにより、タンパク質、DNA、RNA、低分子化合物など、生命現象に関わる多様な分子の挙動をを含む的にモデリングすることが可能になった。
- ハサビスがAGI実現に必要な条件として挙げている具体的な能力とは何か
- ハサビスは2つの条件を挙げている。1つはAIが価値のある新たな物理学理論や数学的予想を提唱し、さらには優雅な新ゲームを発明できるなど、象徴的な創造性を持つことだ。もう1つは、そうしたすべての能力の欠陥が解決されたことを尽きないテストで厳密に検証することである。
- 現在のAIの科学における限界は何か
- 2つの主要な弱点がある。1つは真の深い創造性の欠如で、人間の科学者のように独創的な科学問題をまだ提起できないことだ。もう1つは出力の一貫性の不足で、複雑な問題を解ける一方で、質問の仕方を変えれば簡単な問題に間違えることがある。
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