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TencentのAI戦略、市場評価との乖離が露呈

Tencentの2026年第1四半期決算は好調だったが、株価は大幅下落。市場はAI分野での進展に懸念を示しており、馬化騰氏が自社のAI戦略を語った。

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TencentのAI戦略、市場評価との乖離が露呈
Photo by Donald Wu on Unsplash

決算の強さと株価の軟化という矛盾

Tencentが2026年第1四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比9.1%増の1964億6000万元、Non-IFRS純利益は同11%増の679億元と、ファンダメンタルズは堅調そのものだ。WeChatの月間アクティブユーザー数は14億3200万人に達し、ゲーム事業は過去最高の四半期売上高を記録。広告事業も成長率が再び20%に戻り、業界を牽引する存在感を示した。

しかし、資本市場の反応は冷淡だった。株価は2026年1月の633香港ドルという高値から、現在は460香港ドルまで下落。時価総額は1兆5000億香港ドル以上も蒸発する事態となった。この「業績は好調、しかし株価は下落」という大きな乖離の背景には、市場のTencentに対するAI戦略への不安がくすぶっている。

馬化騰氏が明かした「船」のたとえ話

株主総会で投資家から「TencentのAIは遅れているのか」という直接的な質問が投げかけられた。これに対し、馬化騰氏は率直な回答で応えた。彼は、Tencentの初期のAI基盤が脆弱だったことを認め、「1年前、私たちは船に乗ったと思いましたが、後でその船が水漏れしていることがわかりました。今、立っているのは感じますが、まだ座れていません」という印象的なたとえ話を披露した。

これは、初期のAIモデルがベンチマークスコアを重視するあまり、実用的なシナリオでは体験が伴わなかった過去の反省を示唆している。馬化騰氏は、Tencentが無闇に他社の縄張りを奪うのではなく、自社の強みを活かした着実なアプローチを取っていると強調した。

「まず体系、次に製品」の実践路線

Tencentが取る戦略は、派手なパラメーター競争に追随するのではなく、まず基盤となる体系を構築してから製品を実用化するという「実践路線」だ。2025年12月にはAI組織体制を再構成し、大規模モデル「混元」をゼロから再構築するという大胆な改革を実施した。

その成果が現れ始めた。再構築された「混元3.0」は、稼働開始からわずか2週間で週間呼び出し回数が3兆300億トークンに達し、世界首位を獲得した。また、Hy3 Previewは世界的なモデル呼び出しランキングで首位を獲得し、生産性向上を支援するAIエージェント「WorkBuddy」も国内で日間アクティブユーザー数トップとなった。ゲームや広告などの中核事業が稼いだキャッシュフローでAI投資をカバーする、持続可能なモデルが機能し始めているのだ。

エコシステム優位性が鍵を握る

TencentのAI戦略の中核的優位性は、圧倒的なユーザー基盤と「シナリオベースの実用化」にある。WeChatとQQという2つの14億級プラットフォームを持ち、ミニプログラムのエコシステムを継承した「WeChat AI Agent」の構想は、他社が容易に真似できないアドバンテージだ。

「製品利用 → データフィードバック → モデル改善」という好循環を、自社の豊富な実サービスを通じて回せる点も大きい。技術と製品が乖離しがちな業界の通病を回避できるのだ。現在はコンピューティングリソースの制約がボトルネックとされるが、供給が緩和されれば、TencentのAI価値は再評価される可能性を秘めている。AI競争が「実用化」の段階へ移行する今、Tencentのじっくりと構えた戦略の真価が問われている。

よくある質問

TencentのAIは本当に競合に遅れをとっているのですか?
決算資料を見る限り、大規模モデルの性能ランキングで首位を獲得するなど、技術面での成果は出ています。馬化騰氏自身、初期の基盤が脆弱だったことは認めていますが、現在は組織再編と基盤強化を進め、自社のエコシステムを活かした実用化に注力する独自の道を歩んでいます。派手な競争に参加しない分、「遅れている」という印象を持たれやすい面はあるでしょう。
業績好調にもかかわらず株価が下落した主な原因は何ですか?
最大の要因は、市場が求める「AI分野での圧倒的なプレゼンスや派手なモデル発表」と、Tencentが取る「着実な基盤構築と実用化優先」という戦略との間にズレがあることです。投資家の中には、短期的に目立つ成果や巨額のパラメーター競争での優位性を求める声もあり、Tencentの長期的なアプローチを評価しきれない層がいることが背景にあります。
TencentのAI戦略の強みは具体的に何ですか?
最大の強みは、14億人以上が利用するWeChatという生活インフラを持っている点です。この巨大なエコシステム内でAIエージェントやサービスを展開できれば、他社が及ばない規模でのデータ収集とサービス改善のサイクルを回せます。また、ゲームや広告など多角的な収益源があるため、AI投資に長期的視点で取り組める財務基盤も強みです。
出典: 虎嗅网

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