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トレイルが語る科学とネットの意外な繋がり

ロバート・ムーアの著書「On Trails」は、ハイキング道からインターネットまで、あらゆる「道」の本質を探る。蟻の行列から光ファイバーまで壮大な旅へ。

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トレイルが語る科学とネットの意外な繋がり
Photo by Maksim Shutov on Unsplash

スクリーンを消して、道を探す旅へ ハイキングほど、現代人の心を癒やすシンプルな行為はないだろう。画面を消し、電源を落とし、何日もかけて自然の中に身を置く——そんな体験は、デジタルに溢れた日常から離れることで、人間の根源的な活力を取り戻させてくれる。

だが現実には、忙しい日々の中で長距離トレイルを歩く機会は限られている。その代わりに、アパラチアン・トレイルやPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)の旅を綴った書籍を通じて、バーチャルに大自然を体験する人も多いだろう。米テックメディアThe Vergeのウィークエンド編集者を務めるテレンス・オブライエンも、そんな読者の一人だった。 彼が手に取ったのは、ロバート・ムーアによる『On Trails: An Exploration』。当初は典型的なハイキング紀行文を期待して手に取ったという。しかし、その期待は見事に裏切られた。良い意味で。

アンチの行列から光ファイバーへ——「道」の普遍性 この本のは、プロローグからすぐに感じられる。ムーアはアパラチアン・トレイルのスルーハイク(全行程踏破)

を決意した経緯を語り始めるが、第一章はニューファンドランドのウェスタン・ブルック・ポンドへの旅へと移り、「荒野」という概念そのものを探求する。 嵐に遭遇し尾根に閉じ込められたムーアの描写は鮮烈だ。「約1時間にわたり、鼓膜を揺さぶる雷鳴の波に包まれながら、私はハイキングの意義を再考する余裕があった。ロマン主義の華やかな装いを剥ぎ取られた荒野は、もはや感動を呼び起こすことはなかった。崇高さと恐怖を隔てるものは、薄いガーゼのようなものでしかなかった」 この一節が示唆するのは、本書が単なる旅行記やトレイルを舞台にした回顧録ではないということだ。第二章ではいきなり蟻の行列が登場し、英語における「線状の移動」を表すさまざまな言葉の微妙なニュアンスの違いが議論される。 そこからムーアは、テーマを次々と横断していく。獣の踏み跡、光ファイバーのケーブル、そして彼自身が羊飼いとして過ごした経験。そしてそのすべてを通じて、ムーアは文体のトーンを驚くほど滑らかに切り替えていく。ある瞬間には自然の力について詩的に語り、次の瞬間には羊の群れを見失ったエピソードをコメディアンのような間の良さで語り、さらにその直後には植民地主義がもたらした損害について哲学的な考察を展開する。

1945年の「原インターネット」とトレイルの共通点

本書が特に興味深いのは、トレイルという概念をハイキングや自然界の文脈だけで終わらせない点にある。ムーアは視線をデジタルの世界にも向け、エンジニアのヴァネヴァー・ブッシュが1945年に構想した「原インターネット」とも言うべき情報システムにまで議論を広げる。 ブッシュは第二次世界大戦中に科学研究開発局(OSRD)を率いた人物で、戦後の情報整理の課題に対して「メメックス(Memex)」という個人用の情報機械を提唱した。それは文書同士をリンクで結ぶという発想で、後のハイパーテキストやWorld Wide Webの概念の源流とされている。ムーアはこのブッシュの構想を、トレイルという文脈で再解釈する。つまり、情報と情報を結ぶ「道」もまた、物理的なトレイルと同じ本質を持つのではないか、という問いかけだ。 光ファイバーのケーブルが大地の下に張り巡らされ、データが光のパルスとして世界中を駆け巡る。それはある意味で、何千年も前に獣が自然に踏みならした道や、蟻がフェロモンで仲間に伝える行列と同じ原理に基づいている。最短経路を求める、効率的な経路を確立する、そしてその経路がやがてネットワークになる——こうした「道の論理」は、自然界とデジタル空間を貫く普遍的な法則として描き出される。

逸話と哲学が織りなす読み応え

本書のもう一つの魅力は、ムーアの文章力にある。詩人ゲイリー・スナイダーの言葉を引用しながら自然の美を語るかと思えば、羊の群れを丸ごと迷子にしてしまう失敗談をユーモアたっぷりに語る。そしてその笑いが収まらないうちに、植民地主義という重いテーマへと話を持っていく。 こうした大胆なトーンの切り替えが、通常であれば支離滅裂な印象を与えかねない。しかしオブライエンが書評で指摘するように、本書は「むしろ夢中になって読める」ものでありながら、「話題が大きく飛び跳ねるにもかかわらず、まとまりのなさを感じさせない」。それはムーアの並外れた筆力の証だろう。 本書はシンプルな問いから出発する。アパラチアン・トレイルは、あるいはあらゆるハイキング道は、どのようにして形成されたのか? そこから議論は無数の支流に分かれ、蟻の生態学から植民地主義の歴史、エンジニアの未来構想から詩人の言葉まで、知の地平が果てしなく広がっていく。

デジタル時代に「道」を考える意味

現代社会において、「道」の概念は急速に変容している。物理的な道路やトレイルは依然として存在するが、私たちが日常的にたどる「道」の多くはデジタル空間に存在する。ウェブページからリンクを辿り、SNSのフィードをスクロールし、検索結果をたどって情報にたどり着く——これらもまた、ある種のトレイルなのだ。 ムーアの本が問いかけるのは、こうしたデジタルの道と、森の中の獣道や山岳地帯のハイキングルートが、本質的に同じものではないかということだ。どちらも「ここからあそこへ」という移動の痕跡であり、どちらも繰り返し使われることで確立され、どちらもやがてはネットワークを形成する。 テクノロジー業界に身を置く読者にとって、この視点は示唆に富む。インターネットのインフラ設計、検索アルゴリズムの最適化、ユーザーエクスペリエンスの設計——これらすべてに「道をつくる」という人間の根源的な行為が息づいているのかもしれない。

まとめ——期待を裏切る豊かさ 『On Trails』は、ハイキングの紀行文を求めて手に取った人を最初は戸惑わせるかもしれない。

しかし、その期待を裏切る方向が、想像以上に豊かな場所へと読者を連れてくれる。蟻の行列から光ファイバーへ、獣道からインターネットへ、そして荒野の崇高さから植民地主義の暗部へ——ムーアは「道」という一本の糸で、自然科学、歴史、テクノロジー、哲学を鮮やかに繋ぎ合わせる。 スクリーンを閉じて大自然に出かけられない現代人にとって、この本は文字通り「道」を歩くことの意味を、知的に体験させてくれる一冊だ。 --- FAQ: Q: 「On Trails: An Exploration」はどのような本ですか? A: ロバート・ムーアによるノンフィクションで、ハイキング道、蟻の行列、獣道、光ファイバー、インターネットなど、さまざまな「道(トレイル)」の本質を探求する本です。自然科学、歴史、テクノロジー、哲学を横断する広い視野が特徴です。 Q: テクノロジーとの関連はどこにありますか? A: 本書は光ファイバーケーブルや、エンジニアのヴァネヴァー・ブッシュが1945年に構想した「メメックス」という原インターネット的概念にまで議論を広げ、物理的なトレイルとデジタルネットワークの共通する論理を考察しています。 Q: ハイキング経験がなくても読めますか? A: はい。本書はハイキング紀行文ではなく、トレイルという概念を通じた知的探求の書です。ハイキングの知識がなくても、科学や歴史、テクノロジーに関心があれば十分に楽しめる内容となっています。

出典: The Verge

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