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イングランド銀行RTGS刷新、PACが称賛「見習え」と政府に提言

イギリスの公共セクターで珍しい成功事例として、イングランド銀行の大規模決済システム刷新プロジェクトが議会の監査機関から高く評価された。失敗が目立つ政府IT案件に何が違うのか。

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イングランド銀行RTGS刷新、PACが称賛「見習え」と政府に提言
Photo by Alicja Ziaj on Unsplash

イングランド銀行の技術プロジェクト、議会監査機関から「模範」と称賛

公共セクターの大規模ITプロジェクトといえば、予算超過やスケジュール遅延のイメージがつきまとう。しかし今回、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行(Bank of England)が進めてきた技術刷新プロジェクトが、議会の支出監視委員会(Public Accounts Committee、PAC)から異例の称賛を受けて注目を集めている。

2026年5月3日付のThe Register報道によれば、PACはイングランド銀行が進める「リアルタイム総合決済システム(Real-Time Gross Settlement system、RTGS)」の刷新プロジェクトを、公共セクターにおける「稀有な成功事例」として提示。従来の「失敗と教訓」のパターンから一転し、「他の政府機関もこの成功事例から学ぶべきだ」と提言している。

4億3100万ポンド規模のプロジェクトが手本に

今回の対象となったRTGSシステム刷新は、イギリスの金融システムの中核を担う銀行間決済の基盤を、最新技術へと移行する総額4億3100万ポンド(約800億円規模)の大型プロジェクトだ。

PACの報告書は、イングランド銀行が「主要な長期デジタルプログラムの過程で生じる避けられない課題に取り組み、公共セクターの変換でよく見られる多くの問題を克服した」と評価。プロジェクトの成功要因として、以下の点を挙げている。

まず、プロジェクト着手前に2年間をかけ、計画・分析・設計に「多大な時間とリソース」を投資した。2017年に策定された「青写真」では、新RTGSの5つの主要優先事項が明確に定義されたという。

また、支払い、技術、調達の各専門家からの意見を取り入れ、明確な要件を策定。業界とも協議して開発の優先領域を特定し、他の中央銀行とも連携。さらに独立した外部評価も実施した。

調達プロセスでも、最終的に選ばれた請負業者の提案だけでなく、全 bidder(入札者)から提出されたアイデアを活用できた点も成功の鍵だったと指摘されている。

「全スペクトラムの災難」と呼ばれる失敗事例との対比

PACが今回、わざわざこの成功事例を取り上げた背景には、イギリス公共セクターにおけるITプロジェクトの深刻な失敗が連なることがある。

例えば、救急サービスの通信・データシステム「Emergency Services Network」は、予定より約12年遅れ、予算は30億ポンド超過という状態だ。国民貯蓄投資庁(NS&I)のデジタル刷新プロジェクトも、元の予算を13億ポンド超過しており、完成時には4年間の遅延が見込まれる。PACはこの案件を「全スペクトラムの災難」と厳しく表現している。

こうした中、イングランド銀行のプロジェクトが予算とスケジュールを概ね守りながら推進されたことは、公共セクターにとって貴重な存在となった。

「他の政府機関に学べ」と異例の提言

通常、PACの報告書は政府機関に対して「失敗から学べ」と求めるのが通例だ。しかし今回は、内閣府(Cabinet Office)、科学・技術・イノベーション省(DSIT)、国家インフラストラクチャーサービス変換機関(NISTA)に対して、「この稀有な成功事例から学び、政府のデジタル変換プロジェクトの実施を改善すべきだ」と異例の提言を行った。

公共セクターにおける大規模ITプロジェクトの成功率をいかに引き上げるか。イングランド銀行の事例は、丁寧な計画立案、専門家への適切な助言の活用、業界との連携といった基本に立ち返ることの重要性を改めて示している。

よくある質問

イングランド銀行のRTGSシステム刷新プロジェクトは、なぜPACから称賛されたのですか?
公共セクターの大規模ITプロジェクトで予算超過やスケジュール遅延が常態化する中、イングランド銀行のプロジェクトは計画段階で2年間の詳細な分析を実施し、要件を明確に定義。業界や他中央銀行との連携も行い、予算とスケジュールを概ね遵守して推進できたため、稀有な成功事例として評価されました。
PACが今回の報告で異例だった点は何ですか?
通常、PACの報告書は政府機関に対して「失敗から学ぶべき」と求めるのが通例ですが、今回は逆に「この成功事例から学び、プロジェクトの実施を改善せよ」と提言しました。内閣府や科学技術省などに、成功事例の取り入れを強く求めた点が異例です。
イングランド銀行のプロジェクトの成功要因は何ですか?
計画段階での長期的・体系的な準備、支払い・技術・調達の専門家による要件定義、業界との協議、独立した外部評価の実施などが挙げられます。また、調達時に全入札者の提案を活用した柔軟性も成功につながったとされています。
出典: The Register

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